会ったことのないご主人に、教えてもらったこと――相続と、愛のかたち

相続の仕事をしていると、一度もお会いしたことのない方の人柄に、触れることがあります。

あるご相談で亡くなられたのは、日本人のご主人。奥様は外国籍の方です。

奥様は、ご主人のお話になると、涙がこぼれます。そのご様子やお話から、お二人がどれほど大切に思い合っていたかが伝わってきます。

自分がいなくなった後も、妻が困らずに暮らせるように。できる限り、お金を残しておきたい。

伺ったお話からは、そんなご主人の気遣いを感じました。私はご主人のお顔も、お声も知りません。それでも、優しく、温厚な方だったのだろうと思うのです。

不思量、自難忘

奥様のお話から、蘇軾が亡き妻を思って詠んだ詞を思い出しました。

十年生死兩茫茫,
不思量,自難忘。
千里孤墳,無處話淒涼。
縱使相逢應不識,
塵滿面,鬢如霜。

夜來幽夢忽還鄉,
小軒窗,正梳妝。
相顧無言,惟有淚千行。
料得年年腸斷處,
明月夜,短松岡。

蘇軾『江城子・乙卯正月二十日夜記夢』

妻を亡くして十年。夢の中で故郷へ帰ると、妻は昔のように窓辺で身支度をしている。二人は見つめ合い、言葉を交わせず、ただ涙を流す。目覚めた後には、月夜の墓所へと思いを寄せる――そんな詞です。

「不思量,自難忘。」
思い出そうとしなくても、忘れることなどできない。

「相顧無言,惟有淚千行。」
見つめ合っても言葉は出ず、ただ涙が流れる。

夢に現れるのが、特別な日の妻ではなく、いつものように身支度をする妻であるところに、胸を打たれます。

奥様にも、お二人だけが知る、何気ない日常の記憶があるのでしょう。千年前の詞と、目の前の奥様の涙が、静かに重なります。

受け取った優しさを、ご家族へ

奥様は、ご自身のこれからだけでなく、ご主人のご家族の暮らしも気にかけていらっしゃいました。

中国語に、「有情有義」という言葉があります。情が深く、人とのつながりや受けた思いを大切にすること。奥様を見ていると、この言葉が自然に浮かびます。

ご主人が大切にしていた人たちを、奥様も大切にする。お二人の間で育った優しさが、今も続いているように感じます。

ここまで思い合える方に出会えたことを、私は少し、うらやましく思います。

……「少し」は、遠慮しました。かなり、うらやましいです。

そして奥様を見ていると、ご主人がこの方を大切にされた気持ちも、分かる気がします。お互いに、よい方に巡り合われたのだと思います。

Love is a verb.

“Love is a verb.”

愛情は、日々の行動にも表れます。相手の暮らしを心配すること。その人が大切にしていた家族に、心を配ること。

中国語なら、「替對方著想」。相手の立場に立って考えること。日本語なら、「思いやる」。

三つの言葉を行き来して仕事をしていますが、こういうお気持ちは、訳す前から伝わってくることがあります。

司法書士として、私にできること

もちろん、感動しているだけでは、手続は進みません。

相続人や財産を確認し、ご本人のお考えを伺い、書類を正確に整える。どれほど心を動かされても、登記申請書の誤字を大目に見てもらえるわけではありません。そこは、いつもどおり、しっかりと。

同時に、ご家族を思う奥様のお気持ちと、奥様ご自身のこれからの生活、その両方を大切にしたいと思っています。

内容を理解して選んでいただけるように説明し、ご本人の意思を丁寧に確認する。人の気持ちを受け止めながら、正確に手続を進める。それが、私にできる仕事です。

お二人が一緒に過ごせた時間は、願っていたより短かったのでしょう。もっと一緒にいたかったという思いを、簡単に慰めることはできません。

それでも、愛された記憶や、誰かを心から愛した時間は、その後の人生にも残っていくのだと思います。泣いたり、笑ったりしながら、一生をかけて大切にするものとして。

私は、ご主人にお会いできませんでした。

けれども、奥様を通して、その優しさに触れました。その思いを胸に、今、目の前の仕事を丁寧に進めたいと思っています。

司法書士・行政書士 末廣瑛美


※プライバシーに配慮し、個人につながる情報や財産・手続の詳細は省略しています。本文には筆者の所感を含み、詞の紹介は内容を要約したものです。

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