中国古典と士業の精神(一)|誠実さと自らを磨く姿勢

中国古典の中には、司法書士・行政書士という仕事の在り方に通じる言葉が、数多くあります。
派手さよりも、誠実さ。
目立つことよりも、人を支え、信頼を積み重ねること。

書類の向こうには、一人ひとりの人生があります。
不動産、会社設立、在留資格――
そこには、不安や期待、人生の転機が静かに存在しています。
だからこそ士業には、単なる知識や手続き能力だけではなく、人としての姿勢や品格が求められるのだと思います。

私は、中国語、日本語、英語という異なる言葉や文化に触れながら学びを続けてきました。
異なる価値観に接するたびに感じるのは、時代や国を超えても、人が本当に信頼するものは変わらないということです。
誠実であること。
学び続けること。
静かに責任を果たすこと。中国古典の言葉には、そうした「静かな強さ」が宿っているように感じます。

1「天行健,君子以自强不息」――努力を続け、自らを磨き続ける

天行健,君子以自强不息。(天行健、君子以て自ら強めて息まず)
——《周易・乾卦》

天体が絶えることなく巡り続けるように、人もまた努力を止めず、自らを高め続ける。

法律や制度は、常に変化しています。
士業には、継続的な学びが欠かせません。
けれど私は、この「自強」という言葉を、単なる強さや競争心としては捉えていません。
英語には “resilience” という言葉があります。
それは、ただ硬い強さではなく、困難の中でも折れずに立ち上がる「しなやかな強さ」です。

私は、「自強不息」にも同じ精神を感じます。
静かで穏やかでありながら、内側には揺るがない芯がある。
中国語でいう「外柔内剛」に近いものかもしれません。

士業の仕事もまた、華やかに見える仕事ではありません。
けれど、見えないところで学びを積み重ね、責任を引き受け、信頼を守り続ける仕事なのだと思います。

2「地势坤,君子以厚德载物」――徳をもって、人を支える

地势坤,君子以厚德载物。(地勢坤、君子以て厚徳もて物を載す)
——《周易・坤卦》

大地が万物を静かに受け止めるように、君子もまた深い徳と包容力をもって人を支える。

司法書士や行政書士の仕事には、人生の節目に関わる場面が少なくありません。
相続で大切な方を亡くされた方。
外国で暮らしながら不安を抱える方。
新しい事業を始めようとする方。
依頼者の背景には、それぞれの物語があります。

だからこそ必要なのは、知識を示すこと以上に、「安心して相談できる」と感じていただける空気なのではないかと思います。
「厚徳載物」 という言葉には、人を裁くのではなく、静かに受け止める優しさがあります。
専門家である前に、一人の人間として、相手の立場に耳を傾けること。
私は、その姿勢を大切にしたいと思っています。

3「穷则变,变则通,通则久」――変化を恐れず、道を開く

穷则变,变则通,通则久。(行き詰まれば変化が生まれ、変化によって道が開け、道が開けることで長く続いていく。)
——《周易・系辞下》

社会制度、国際化、AI、デジタル化。
士業を取り巻く環境も、大きく変化しています。
だからこそ、学び続ける姿勢が必要なのだと思います。

外国語や異文化理解もまた、その一つです。
言葉が変われば、物事の見え方も変わります。

私は、異なる文化や背景を持つ方々と接する中で、「伝える」ことの難しさと大切さを何度も感じてきました。法律を扱う仕事だからこそ、正確さだけではなく、相手に伝わる言葉で説明することが大切なのだと思います。
変化を拒むのではなく、柔軟に受け入れながら、本質を守っていく。
それもまた、現代の士業に必要な姿勢ではないでしょうか。


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